模試の総得点を見て「これならA判定、合格圏内だ」と安心したのも束の間、必修だけを計算したら80%を割っていた――。 あるいは、必修は余裕があるのに「一般・臨床のボーダーラインは毎年動く」と聞いて、本番直前まで不安が消えない――。
医師国家試験(国試)対策で、こうした悩みを抱える医学生は非常に多くいます。結論から言うと、医師国家試験の合否は「合計点」ひとつでは決して判断できません。
合否を分けるのは、「必修問題」「必修以外の一般・臨床実地問題」「禁忌肢」という独立した3つのゲート(合格基準)です。これらは配点の仕組みも合格ラインの決まり方もまったく異なるため、すべてを個別にクリアしなければ合格証書を手にすることはできません。
この記事では、直近の国試基準(第120回)をベースに合格基準の仕組みをわかりやすく解説します。さらに、模試や本番の自己採点結果をどう分析し、明日からの勉強戦略にどう落とし込むかまで具体的にまとめました。
結論:第120回の合格基準と合格率(直近3回)
先に結論です。第120回(2026年2月実施)は、必修が160点以上/200点、必修以外が224点以上/300点、禁忌肢が3問以下という基準で、受験者9,980人のうち9,139人が合格しました。合格率は91.6%、新卒だけなら94.7%です。
必修(160点以上/200点)と禁忌肢(3問以下)の基準は、直近3回とも同じです。毎年動くのは必修以外(300点満点)の合格点だけなので、第119回(2025年2月)・第118回(2024年2月)と並べるとこうなります。
| 回 | 合格点 | 合格率(新卒) |
|---|---|---|
| 第120回 | 224点 | 91.6%(94.7%) |
| 第119回 | 221点 | 92.3%(95.0%) |
| 第118回 | 230点 | 92.4%(95.4%) |
合格点は必修以外の300点満点での点数、かっこ内は新卒だけの合格率です。ここから、3つの基準を1つずつ見ていきます。
1. 医師国家試験の合格基準は「3つのゲート」で決まる
医師国家試験の合否判定では、次の3つの基準が課されます(第120回医師国家試験の公式基準を例にとります)。
| 判定項目 | 合格基準(第120回) | 基準の性質 |
|---|---|---|
| ① 必修問題 | 160点以上/200点 | 得点率80%の絶対基準 |
| ② 必修以外の一般・臨床実地問題 | 224点以上/300点 | 平均点・標準偏差による相対基準(ボーダー変動) |
| ③ 禁忌肢問題選択数 | 3問以下 | 得点とは独立した選択数の条件 |
もっとも重要な鉄則は、「3つの数字を絶対に合算して見ないこと」です。
どれほど総得点が高くても、必修が1点足りなければ不合格になります。逆に、必修が満点に近くても、必修以外の問題で相対ボーダーに届かなければ合格できません。さらに、どれだけハイスコアを取っていても、第120回の基準では禁忌肢が4問以上だとこの条件を満たしません。
模試が返ってきたときや自己採点をするときは、まずこの「3つの独立した行」に分けて成績をチェックする習慣をつけてください。これだけで、今自分が本当に補強すべき課題が一目で浮き彫りになります。
2. 必修問題:問題数は100問、満点は「200点」(1問3点に注意!)
必修問題は全100問で構成されますが、配点は100点満点ではありません。
- 必修・一般問題(50問):1問 1点(計50点)
- 必修・臨床実地問題(50問):1問 3点(計150点)
- 合計:一般50点 + 臨床150点 = 200点満点
合格ラインは「得点率80%以上」と定められているため、200点中160点以上を獲得しなければなりません。
なぜ「正答数」ではなく「得点」で管理すべきなのか?
配点差が大きいため、単に「何問正解したか」で自己採点していると命取りになります。
例えば、同じ「85問正解(正答率85%)」だったとしても、内訳によって得点は大きく変わります。
| 区分 | 正解数 | 配点 | 得点 |
|---|---|---|---|
| 必修・一般問題 | 46問/50問 | 1問 1点 | 46点 |
| 必修・臨床実地問題 | 39問/50問 | 1問 3点 | 117点 |
| 合計 | 85問/100問 | ― | 163点/200点(合格ライン突破) |
もし臨床実地問題のミスが多く、一般49点・臨床36問正解だったとすると、合計85問正解でも「49点 + 108点 = 157点」となり、不合格ラインに沈んでしまいます。
必修臨床実地問題の「1問3点」は非常に重いため、日頃の演習から正解数ではなく「得点換算」で進捗を追うことが鉄則です。
必修が80%を切ったときの処方箋
模試で必修が80%を下回った場合、難問や重箱の隅をつつくような知識に手を伸ばしてはいけません。必修で問われるのは「医師としての基本的態度と基本的診療能力」です。
- 医療安全・感染対策
- 救急初期対応(ABCDEアプローチなど)
- 主要症候へのファーストタッチ
- 頻出の基本手技・医療面接
まずはこれら頻出領域の基本知識・初期判断に抜けがないかを最優先で総点検しましょう。
3. 必修以外の一般・臨床問題:合算300点満点、合格ラインは「相対基準」
必修を除く残り300問(一般問題100問、臨床実地問題200問)は、どちらも1問1点で計算され、合算した300点満点に対して合否が判定されます。
「一般問題だけで何割」「臨床実地問題だけで何割」といった個別基準はありません。合否を予測する際は、両者の点数を足し合わせた合計スコアで判断します。
「ボーダーラインが毎年変わる」理由
必修以外の問題について、厚生労働省は「平均点と標準偏差を用いた相対基準により決定する」と公表しています。つまり、その年の受験生全体の出来具合(問題の難易度)に応じて、合格点(ボーダー)が毎年上下します。
直近3回の合格基準の推移を見てみましょう。
| 試験回 | 必修問題(絶対基準) | 必修以外(相対基準) | 禁忌肢 |
|---|---|---|---|
| 第118回 | 160点以上/200点 | 230点以上/300点(得点率 約76.7%) | 3問以下 |
| 第119回 | 160点以上/200点 | 221点以上/300点(得点率 約73.7%) | 3問以下 |
| 第120回 | 160点以上/200点 | 224点以上/300点(得点率 約74.7%) | 3問以下 |
このように、年によってボーダーは10点近く動くことがあります。そのため、「過去問で224点取れたから今年も安心」と言い切ることはできません。
対策:「ボーダー予想」に時間を使わず、再現性を高める
受験生が「今年のボーダーは何点になるか?」と予想することに意味はありません。模試の受験者層や難易度は本番と完全には一致しないからです。
目指すべきは、「前年のボーダーを1点超えること」ではなく、根拠を説明できる正解を増やし、模試ごとの得点のぶれを小さくすることです。相対基準でも必修と禁忌肢は別条件なので、順位や総合判定だけで合格を保証することはできません。あやふやな記憶でたまたま当たった問題を放置せず、「なぜその選択肢になるのか」を説明できる問題を1問ずつ増やしていきましょう。
4. 禁忌肢:1発アウトではないが「3問以下」厳守
禁忌肢問題は、「患者の生命危機や不可逆的な機能廃絶に直結する行為」や「重大な医療倫理違反」を選ぶ受験者をスクリーニングするために設定されています。近年の国試では、「禁忌肢の選択数が3問以下であること」が合格条件です。
禁忌肢に関する2大誤解
受験生の間でよくある誤解が次の2つです。
- 「禁忌肢を1つ選んだら即不合格になる」 = 第120回の基準とは異なる
- 「禁忌肢を選ぶと総得点から減点される」 = 得点とは別に選択数で判定される
第120回の正式基準は「3問以下」なので、1問を選んだ時点で直ちに不合格になる仕組みではありません。ただし、受験回の確定基準はその回の合格発表で確認します。
とはいえ「3問までなら選んでいい」と甘く見るのは危険
禁忌肢を踏んでしまう原因は、知識不足というよりも「安全確認の手順を無意識に飛ばしたこと」にあります。
模試で禁忌肢を踏んでしまったときは、単に正解選択肢を覚えるのではなく、「自分はどの確認ステップを怠ったのか」を必ず言語化して記録しましょう。
- バイタルサインや緊急性の見落とし(ショック状態なのに漫然と精査を優先していないか)
- 禁忌となる病態・既往・併用薬の確認漏れ
- 侵襲的手技のリスク確認(出血傾向がある患者への穿刺など)
- 患者の同意・医療倫理への違反
これらを「安全管理チェックリスト」として自分の中にストックしていくことが、本番での禁忌肢回避につながります。
5. 正式な合格基準が決まるプロセス
医師国家試験が終了すると、医道審議会医師分科会医師国家試験K・V部会で問題の妥当性が検討されます。その意見を踏まえて、厚生労働大臣が合格者を決定します。
試験直後の予備校リサーチや自己採点サービスでわかるのは、あくまで「過去のデータと速報解答に基づく見込み」に過ぎません。
試験前に確定ボーダーを探し続けるのではなく、必修は80%の絶対基準、必修以外は直近回の正式基準を目安に余裕を持たせ、禁忌肢はゼロを目標として準備します。
6. 合格を引き寄せる!模試・自己採点の「3行記録シート」
模試を受け終わった後、総合偏差値や総得点だけを見て一喜一憂していませんか? 次回の模試からは、成績表が返ってきたら真っ先にノートやスプレッドシートへ次の「3行」を書き出してください。
【実践】3行自己採点シートの記入例
| 判定項目 | 今回の成績 | 前回の成績 | 次の1週間で修正するアクション |
|---|---|---|---|
| ① 必修問題 | 163点/200点 | 156点/200点 | 自信がなかった必修臨床実地(3点問題)の症候・初期対応を復習 |
| ② 必修以外 | 225点/300点 | 218点/300点 | 循環器・呼吸器の誤答と、迷って正解した問題を解き直す |
| ③ 禁忌肢 | 2問 | 1問 | 禁忌肢を選んだ原因(アレルギー確認の抜け)をノートにメモ |
復習の優先順位を決める4ステップ
- 必修が80%(160点)未満なら、すべての勉強に優先して必修対策に戻る:一般・臨床実地がどれだけ取れていても、必修落ちのリスクがある状態は危険信号です。
- 必修以外は「一般」と「臨床実地」を別々に集計し、穴になっている分野を特定する:合否判定では合算しつつ、復習ではそれぞれの誤答領域と原因を見極めます。
- 禁忌肢は点数と混ぜず、「選んだ理由」を思考プロセスから洗い出す:問題文のどの条件を読み飛ばしていたかを振り返ります。
- 「正解したけれど根拠を説明できなかった問題」を復習リストに加える:偶然当たっただけの問題を放置しないようにします。
このように3行に分けて課題を整理することで、「暗記を増やすべきか」「症例文の読解手順を見直すべきか」「安全確認の意識を変えるべきか」が明確になり、明日からの学習計画に迷いがなくなります。
まとめ:総合点ではなく「3つのゲート」を個別に突破しよう
医師国家試験の合格基準は、以下の3条件です。
- 必修問題:1問3点の臨床実地を含む200点満点中、80%(160点以上)が必要な絶対基準
- 必修以外:一般と臨床実地を合わせた300点満点中、相対基準(年度変動ボーダー)で決まる
- 禁忌肢:得点とは無関係に、選択数を3問以下に抑える独立基準
「模試の総得点が高かったから安心」でもなければ、「ボーダーが読めないからと闇雲に不安がる」必要もありません。
まずは次の模試から、結果を「必修」「必修以外」「禁忌肢」の3行に分解してみましょう。見失いかけていた本当の弱点が明確になり、合格への最短ルートが見えてくるはずです。

